IT業界や医療・福祉系、
あるいは専門職・ホワイトカラー系求人で、
よくみかける「〇〇経験〇年以上」の求人コピーと構文。
例えば、正社員求人で「〇〇経験3年以上」と書かれていた場合、
この求人を見た求職者がどのように感じるか?
この条件を“応募への壁”と感じるであろう層は、
以下の求職者のレイヤーが考えられます。
◆キャリア初期~若手層
・社会人2~4年目くらいで、まだ「3年以上」に届いていない人
・「自分の知識・スキルに不安」を感じ、
「3年以上」に「自分はまだ門の外」と感じやすい人
◆業界チェンジ・職種チェンジ希望者
・他業界での経験は十分にあるが、
その業界では実務年数がゼロ~少ない人
・「経験3年以上」があるだけで、
「自分のキャリアは評価されない」と感じやすい人
◆子育て・介護などでブランクを挟んだ人
・家庭の事情等で、数年間フルタイム就業から離れていた人
・「ブランクが長くて、能力的にも年齢的にも採用してもらえるか不安」と感じている人
共通しているのは、
「経験の“年数”よりも“中身”を見てほしい」と
考えている層の求職者です。
そして「〇〇経験3年以上」の一行は、
読み手によっては
・「3年に足りないあなたの経験は“経験なし”と同じ」
・「この業界じゃない経験はノーカウント」
といった印象で受け取られ、その結果、
・「自分のキャリアごと否定された」
ように感じ、
・「どうせ中身を見てくれない会社なんだろうな」
求人企業に対するそんな心象が形成され、
その求人に「条件の緩和の余地がないか?」といった問い合わせもないまま、
“静かに離れていく”構図がみえてきます。
ここでもう一度、
“壁”と感じる求職者層をみてください。
本当は会ってみたい・応募してほしい、
そんな求職者は含まれていませんか?
「〇〇経験3年以上」のたった一言で、
入り口の段階で応募を断念させる。
入り口のたった一言で、
即戦力のポテンシャルを持つ転職者を落としている。
企業側にとっても損しかないはずなのに、
果たしてこれが求人企業の意図した求職者の印象・行動なのでしょうか?
「〇〇経験3年以上」
このコピーは一見すると
明確で客観的な条件に見えます。
しかし、本当にそうでしょうか?
求人票には、このほかにも
数字を使ったコピー例があります。
1.仕事内容・業務比率等の数値化
「受注管理40%/請求書発行30%/データ分析30%」
「1日の訪問件数は5件です」
2.労働条件の数値化
「残業月10時間以内」
「年間休日125日」
「月給25〜35万円」「年収例400〜560万円」
3.会社の安定性・魅力の数値化
「売上高〇〇億円(前年比120%成長)」
「取引社数〇〇社以上」
数字は具体的で分かりやすく、
信頼感があるようにも見えます。
しかし実際には、
1.の業務比率には、入社後に「話が違う」トラブルのリスクがあり、
2.の年収例の表記には職業安定法上の「誤認表示」のリスクがあります。
「残業月10時間以内」も「年間休日125日」もよくみかける求人コピーですが、
裏付けを取りにくい点では“盛っている?”と勘繰られることもあり、
入社後のトラブルにつながるリスクも内包しています。
つまり、これらの求人コピーは
数値化しても曖昧さが残ったまま
そう考えると
本当にワンセンテンスの求人コピーとして安心して使えるのは、
「従業員〇〇〇人」など企業ホームページで裏付けを取れるものや、
「始業・終業時間」など数字で表示することが必須な事柄に限られ、
その他の数値化した求人コピーは、文脈の中や他の求人コピーとの
組み合わせで補足・補強的に使うのが無難といえます。
「経験3年以上」もまた同じです。
数字で表現されているため客観的な条件に見えますが、
求職者が本当に知りたい
・どんな経験なのか
・どのレベルなのか
・どのような役割を担ったのか
までは見えてきません。
「数字で見せても曖昧なものはある」
この視点で「経験〇年以上」をみると、
また違った景色が見えてきます。
■ 求人企業が求める「〇〇経験」とは?
では、求人企業が求める「〇〇経験」の
本質はどこにあるのでしょうか?
私自身の実感でもありますが、
「経験の深さ」とは“質×量”です。
質とは、
・どれだけ難度の高い課題に取り組んだか
・どれだけ自分の頭を使って課題に取り組んだか
・どれだけ責任の重いポジションで課題に取り組んだか など
量とは、
・どれだけ多くの案件をこなしたか
・どれだけ多くのプロジェクトをさばいたか
・どれだけ多くの実績を上げたか など
たとえ3年に満たない短い年数でも、
濃密な時間を過ごして経験値を上げた方もいますし、
自ら主体的にその分野を学び専門性を磨いた方もいるはずです。
反対に「3年以上」という年数の数字だけで
経験の深さが担保されるわけでもありません。
“求める経験”の解像度を上げて具体的にみてみると、
決して「3年以上」や「5年以上」といったラベルだけで
測定・判断できるものではないことが見えてきます。
■ 求人指標として「〇年以上」が機能しにくい主な理由
「経験3年以上」が求人指標として
合理的ではない理由を整理してみます。
◆「経験3年以上」をクリアできていない層
・「3年以上ならOK、2年11か月はNG」の根拠が乏しい
・リスキリングなどでキャリアチェンジを考える層には、
年齢制限と同じくらいの壁になり「門前払い」された感覚になる
◆「経験3年以上」をクリアできた層
・“年数”だけからは、その経験の中身が読めない
・「どんな経験を、どのレベルまで」が書かれていないと、
自分が求められているのかを判断できない
業務内容や評価基準があいまいだと、
応募の決め手にはなっていない傾向もみてとれます。
“経験3年以上縛り”の求人コピーに頼ってしまうことは、
・3年未満の経験者を門前払いし
・3年以上の経験者にも敬遠される
企業は応募条件を示しているつもりでも、
求職者から見ると「判断材料」ではなく
「選別材料」が提供されたと受け取られて
どちらの"経験者"からもスルーされ
その結果、本当は会ってみたい人材が応募前に
離脱していることに気付けないままになっているのかもしれません。
■ むしろ「〇〇経験が浅い方歓迎」が求人コピーとして機能する理由
具体的に「どんな経験を、どのレベルまで」の記述とワンセットで訴求する
「経験〇年以上」を「〇〇経験が浅い方歓迎」に差し替えてみると、
どんな効果が期待できるでしょうか?
・数字でバッサリ切っていないので読み手が増える
・「浅い」というグラデーションで読み手に判断の幅を持たせる
・「どんな経験を、どのレベルまで」がワンセットで分かりやすく
書かれていれば「経験の中身で評価する会社」のイメージに
もちろん「経験が浅い方歓迎」という
表現自体が優れているわけではありません。
このフレーズのポイントは「浅い方」です。
経験年数で線を引くのではなく、
「経験の中身に目を向けて評価する」
ニュアンスを求職者に提示しているところです。
重要なのは「浅い方」を提示することで
読み手である求職者が
「この先に自分がそうであるかを
判断できる情報があるかも?」
という入り口を設けたことです。
当初「〇年以上」で門前払いをしていた即戦力のポテンシャルを持つ層も、
この一文で求人票を読み進める動機・きっかけになれば、
応募してもらうチャンスも期待できるのではないでしょうか?
数字で客観的でも、むしろ機能しない
曖昧で抽象的でも、かえって機能する
まさに求人コピー・文章表現の妙味といえます。
とはいえ「経験〇年以上」のラベルを
「〇〇経験が浅い方歓迎」に差し替えただけで、
即、求職者が求人票を読み進めてくれるわけではありません。
求人企業が自ら狭めた入り口(間口)を拡げただけです
そこから先の内容がしっかりとしていなければ、
応募という行動につながることはありません。
たとえば、具体的で働くイメージができる仕事の内容
たとえば、期待する役割・やってほしいミッション
たとえば、歓迎する具体的な実務経験
ハローワーク求人票の
「仕事内容」欄は
1行30文字×12行の構造です。
この「仕事内容欄」は、どの求人企業にも
平等に与えられた「広告スペース」です。
本連載コラムやセミナーで
永らくお伝えしていますが、
「求人票も広告」です
例えば広告で、
・今すぐ買ってください!
・絶対お得です!
・買わないと損です!
ばかり連呼する広告は、たいてい警戒されます。
その広告に接した受け手の心情は
「いやいや"判断する"のはこっちなんだけど」
ではないでしょうか。
求人票も同じです
「応募する・しない」の判断をするのは
求人票の読み手である求職者です
・この会社の求人は自分に合っているかも
・この会社のこの仕事、経験が活かせそう
・この条件なら、チャレンジしてもよさそう
これらは全て「求人票を"完読"した後の求職者の判断」です
「応募がある」の裏側には
「応募したい・話を聴いてみたい」と
いった求職者の"心の動き"があるはずです。
どんな情報をどこ配置しなにを訴求して、
求職者が応募するかどうかを
求職者自身に判断させるか
この動線の引き方は、
広告の世界で計算・設計する
仕掛けと本質は同じです。
キャッチコピーにキャッチコピーの、
リードコピーにはリードコピーの、
ボディコピーにはボディコピーの、
役割と機能があります。
入り口(間口)を拡げるコピーを
どこに配置するかは会社の事情で変わりますが
ワンフレーズの求人コピーは、
求人票を構成するパーツのひとつでしかありません。
ワンフレーズの表現を変えるだけではなく、
その伝え方の順番を変えるだけでも
求人票全体のイメージが変わります。
改善課題は求人コピーだけではありません。
求人票全体を俯瞰して、どこで、
応募者を採り損ねているか?
目詰まりを起こしているか?
一度点検をしてみてください。