■ なぜ「もくもく・こつこつ」な求人コピーが製造業を中心に拡散したのか?
"オノマトペ"とは
「読んだ人に『〇〇な感じや雰囲気』を、
語感でイメージを一気に立ち上げる言葉」
その効能には光と影の両面があり
◆光の面
・情景や感覚を一瞬でイメージさせる
・記憶に残るフックになる
・文字だけでは弱い体験を補強する
◆影の面
・多用すると子どもっぽくなり、信頼感が落ちる
・受け手によって意味の解釈がズレる・あいまいになる
・載せる媒体によっては「軽すぎる(チャラい)」印象になる
などを挙げることができます。
では、なぜ求人コピーに拡散したのでしょうか?
背景にはいくつかの理由が考えられますが
たとえば、
・未経験者の心理的ハードルを下げたい
・難しくなさそうな印象を与えたい
・応募者の間口を広げたい
・人手不足の中で応募数を増やしたい
といった事情です。
また、このような表現は
・コツコツ作業が好きな方
・一人でもくもく取り組める方
といった「求める人材像」を
伝える言葉で使われることもあります。
問題は、その言葉を使った求人票のフレーズが
”便利な”テンプレコピーに変容し
独り歩きしてしまっていることにあります。
■ オノマトペな求人コピーが抱える課題
製造業求人で使われるオノマトペには、
本来は、企業側の伝えたい意図も
あったはずです
たとえば、
・もくもく:集中して取り組む
・こつこつ:地道に継続する
など
・集中力が求められる工程
・安全上の理由から私語が少ない現場
などのニュアンスを表現するフレーズとして
使うことを否定しているのではありません。
しかし求人票の読み手である求職者側は、
その語感から必ずしも同じ意味で受け取るとは限りません。
・楽そう
・簡単そう
・人と関わらなくてよさそう
・単純作業っぽい
そんなイメージを抱くこともあります。
その結果、
実際は高い品質管理や責任が求められる仕事でも
「もくもくと作業さえすればいい仕事」
チームワークが重要な現場でも
「一人でやればいい作業」と受け取られる。
どうしても語感や見た目に引っ張られて
曖昧さを内包したまま仕事内容への誤解を
生みやすくなるフレーズとなってしまうことは否めません
■ このような求人コピーは「未経験者・若手」には、どう響いているのか?
こうした表現は、応募のきっかけとして
機能することがあります。
たとえば、
・人間関係に不安がある
・まずは収入を得たい
・難しそうな仕事は避けたい
そんな働き方を希望する求職者には、
応募を後押しする材料になるでしょう。
しかし、そんなみなさんも入社後に
「思っていた仕事と違う」となれば話は別です。
入社して実際に配属された工場では、
・担当された作業一人でするが、前後の工程に別の人がいるチーム作業だった
・日常的に縦・横・ななめの人間関係があり、報告・連絡・相談もしなければいけない
・作業場の安全確保のため職場の規律で「やってはいけないこと」がたくさんある
・急な段取り変更で別ラインに「応援に入れ」と指示される
自分が応募を決めたオノマトペ求人コピーと現実とのギャップが、
早期離職のきっかけになることも考えられます。
■ 製造業経験のある若者・ものづくりに関心のある若者には、どう響いているのか?
一方で、ものづくりの現場を知る人たちは、
別の視点で求人票を見ています。
・そもそもなにを作っているのか?
・どんな素材でどんな製品を作るのか?
・どんな工程があるのか?
・工場にはどんな設備があるのか?
・ここで働くとどんな技術が身につくのか?
・どんな職場・働く環境なのか?
そうした情報を知らなければ「選べない」はずです。
ところが、求人票に「もくもく作業」的なコピーしかなければ
・「仕事内容が見えない」・「また話が違うかもしれない」
という印象につながることもあります。
これは、経験者だけでなく
ものづくりに興味を持つ未経験者にとっても同じことです。
「ここで働くこと」の判断材料が不足してしまうのです。
実際の製造現場は、
「一人でもくもく」だけで成り立つものではありません。
・前後工程とのスムーズな連携
・現場リーダーとの報・連・相
・異常発生時の品質確認と製造ラインと一時停止・再開
・生産性向上のためのQCサークルなどのカイゼン活動
・急な生産計画変更への対応(残業・応援人員の手配)
製造現場に居た経験のあるみなさんには
イメージして頂けることかと思いますが
多くの工場では、
日々、チームワークとコミュニケーションの連続であり、
安全・品質・納期を守るための情報共有が行われています。
たしかに仕事の一部分だけを切り取れば
「もくもくと(集中して)作業」は正解です。
しかし現場全体を見れば、
それだけでは 表現しきれないのが「製造業で働くこと」なはずです。
■ "オノマトペ入りテンプレ求人コピー"が生み出す製造業の"負の連鎖"
ここまで読まれて、
「では、オノマトペ表現が悪いのか?」
と思われるかもしれません。
しかし、今回のテーマの本質は、
前回のコラムと同じく オノマトペ表現の"言葉狩り"ではなく、
その言葉に依存してしまう危うさにあります。
そもそも「若手が欲しい」という
採用ニーズはどこからくるのでしょう?
一部の製造業では、職場の高齢化や技能継承の問題から、
若手人材の確保が切実な経営課題になっています。
ところが、
その「若手」が具体的にどんな若手なのかが整理されないまま、
とりあえず「母集団形成」のためだけに求人票を作ろうとすると、
応募数を増やすための便利な言葉に頼りやすくなります。
その結果
・仕事内容の解像度低い求人が出る
・応募者との「この会社で働くこと」などの認識にズレが生まれる。
・ミスマッチ採用が増える。
・結果、求人票と働く現場のギャップを感じ早期離職が発生する。
さらに、
・教えてもすぐ辞める→また採用する
→また教える→また辞める
あるいは
・すぐ辞めるから若手育成への意欲が下がる
→人手不足も解消しない→職場が疲弊する
→真面目に働いていた若手の定着率も下がる。
→職場の雰囲気に影響が及ぶ。
人材を受け入れる製造現場でそんな悪循環が続けば、
現場で働くスタッフの疲労感や徒労感や
新しく入社してきた人材への諦めにつながる可能性もあります
そして、採用の現場では
・なんとか若手を採りたい→とりあえず応募数を増やさなきゃ
→さらにテンプレコピーに頼る
→結果としてさらにミスマッチが増える
という際限のない"負の連鎖"が生まれてしまうやも知れません。
もちろん、
製造業離れの原因は一つではありません。
しかし、
求職者と「自社で働くこと」との
最初の接点である求人票が、
現場の実態や魅力を十分に伝えられていないとしたら・・・
その小さなズレから始まる"負のスパイラル"が
昨今さまざまなシーンで語られる「若者の製造業離れ」を
加速させる一因になっているとしたら・・・
そう考えると、最初の接点である
求人票でできることの足掛かりが見えてきます
■ 解決へのアプローチ1 「若手が欲しい」の解像度を上げる
専門家派遣などでもそうですが
製造業の採用現場では
「若い人が欲しい」という言葉をよく耳にします。
しかし、その言葉の解像度を上げると
そのワンフレーズには異なる採用ニーズが
混在していることが見えてきます。
例えば、
・今すぐ現場で活躍してほしい若手人材
・ノウハウ・技術の継承などを含め、
将来を見据えじっくりと育成したい若手人材
同じ「若手」でも、
企業が期待する役割は大きく異なります。
本来、採用活動は
「誰に来てほしいのか」から始まるはずです
ですがその誰は能力・経験・スペックだけではないはずです。
定着して欲しい人材であれば
「自社の職場・現場に馴染めそうな人」も
求める人材像ではないでしょうか?
それにもかかわらず、
その本質的な人材像が曖昧なままに
求人票を作れば伝える内容も曖昧になります。
だからこそ、
経験者・未経験者という区分だけではなく、
「自社で活躍している若手にはどんな特徴があるのか」
「どんな若手と未来を作りたいのか」
まで掘り下げて考えることが、
閉塞した求人・採用を打開するアプローチではないでしょうか?
■ 解決へのアプローチ2 欲しい人材の解像度が変われば、求人票は変わる
採用したに人材のターゲットゾーンが
明確になれば、求人票で伝える内容も変わります。
経験者や現場を知る人には、
・工場の設備や製造工程
・この仕事の難しさや面白さ
など「この会社で働く姿」が見える情報を。
育成を前提とした若手や未経験者には、
・仕事の流れや育成体制・取組み
・仕事で身につく技術や経験 など、
「成長する姿」が見える情報を。
本連載コラムや求人票の書き方セミナーで
永らくお伝えしていますが 「求人票も広告です」
求人票を書くには
・求人票で訴求するターゲットの明確化
▽
・求人票でなにを伝えるかのネタ出しと
どう伝えるかのプラン設計
▽
・コピーライティングで求人票に落とし込み
そんなプロセスで進むものです。
しかし現実には、
訴求するターゲット(求める人材像)への
フォーカスが曖昧なまま、
"いいい感じの"コピーライティングだけで
解決しようとしてしまうことがあります。
その結果として現れる症状のひとつが、
「もくもく~」や「こつこつ~」
といった便利なテンプレ求人コピーへの依存なのかもしれません。
オノマトペ表現の求人コピーを使うこと自体は問題ではありません。
ただ、その言葉にすっかり頼ってしまってしまい
仕事内容や職場環境は曖昧・不明瞭なままになってはいませんか?
仕事のリアルや工場の情景が見える情報と、
セットでわかりやすく求職者に伝わっているか?
そこが求人票の書き方の重要なポイントです。
「応募が来ない」・「若い人が採れない」
だから 「自社のノウハウや技術の伝承もまままならい」
採用を焦る気持ちはよく分かります。
だからこそ、
「応募数を増やしたい」
「敷居を低くして間口も拡げたい」
そう考えるのも自然なことです。
しかし、
「ものづくりの現場」にいる
大勢のみなさんがそう思っているように、
"妥協の産物"は良い結果につながりません。
求人・採用もまた、
同じではないでしょうか?
「どんな人に来てほしいのか」
採用の教科書やノウハウ本にあるような
スペックや能力要件だけではなく、
自社で活躍している人材の特徴や、
職場との相性など
そうした様々な角度から
人材像にスポットをあて、
その解像度が上がるほど、
求人票で伝えるべき言葉も変わります。
求人票は単なる
"人集めのための道具"ではありません。
求職者に向け、企業の"採用への想い"を
言葉に込めた広告なのですから。
みなさんは、
どんな若手人材と、
どんな未来を作りたいですか?